第十二話 はじめての女性からの電話(その1)
そして3週間がたとうとしていた土曜日の夜、今まで鳴ったことのなかったスマホの着信音が狭いアパートの部屋に鳴り響いた。
最初、何が起きたか分からなかったが、少ししてそれがスマホの着信音で自分のiPhoneに電話がかかってきていることが分かった。このiPhoneに電話がかかってきたのって初めてかもしれない。画面には「遠坂凛」と表示されていた。大変だ、早くでなきゃ。でも電話はどうやって出ればいいんだろう。画面をよく見たらスライドする印が出ている。そっか、普通にスライドすればいいのか。すぐにスライドさせる。
「も、もしもし、サトーです。」
「遠坂です。今、大丈夫ですか?」
「全然、大丈夫ですよー。」
遠坂さんからの電話ならほとんどの用事はキャンセルして大丈夫にしちゃいますよ。
「連絡が遅くなっちゃってゴメンなさい。なかなか原稿が終わらなくて。」
「へーき、へーき。待つの大好きだから。」
フェードアウトされたらどうしようと思ったけど、本当に連絡が来て良かった。
「来週の土曜日って時間ありますか?」
「あ、土曜日ですか?大丈夫です。」
「よかった。どこかに出掛けませんか?」
もちろん、これは即答だ。
「はい、行きましょう♫」
「どこに行きましょうか?」
どこだろう。自分としては遠坂さんと一緒ならどこだっていいんだけど。
デートの定番と言えばあそこだろうか。
「えっと〜、映画とか遊園地とかはどうでしょう?」
「・・・。まだ、私たちってお互いのことをほとんど知らないじゃない。だから、しばらくはご飯を食べながら話をするのが良いと思うんですけどぉ。」
「そ、そうですね。」
「どこがいいかな?」
そんなこと聞かれても俺が知っているわけが無い。
「えっとー。あまりそういう所は行ったことがないからよく知らないんですよ。」
「別に普通のところでいいよ。」
だから、普通が分からないんだよ。俺がよく行くのはラーメン屋とか吉野家だ。
「たぶん、遠坂さんの方がお店とかいろいろ知ってると思うんだけど」
「・・・。こういうのは男性が決めるものなの。」
「そうですか。それじゃあ、調べて後で連絡しますね。」
「はい。」
と言うわけでお店を決めなくてはならなくなった。また、食べログで検索してみようか。そういえば、木村さんと合コンしたお店がオシャレでいいかも。ちょっと高いけど、遠坂さんと行けるなら全然オッケーだ。さっそく、お店に予約の電話を入れる。そして遠坂さんにメールする。よーし、遠坂さんとデートだ。あ、また、服を買ってこないといけない。明日、デパートに行って買ってこよう。本当にお金がかかるなぁ。