独身アラフォー非モテ男の婚活日誌

友達なし彼女なしのアラフォー非モテ男による婚活活動日誌

最終話 はじめてのウェディング(その3)

(はじめてのウェディング)
1年後。
都内にあるホテルのチャペル。
西洋人の神父さんが流暢な日本語で「・・・いついかなる時も新婦を愛することを誓いますか?」と問い、自分は「はい、誓います!」と答えた。今思うとあっという間だったが、小川さんと無事に結婚式を挙げることができた。小川さんから感じていた、フツウさ、自然さは、1年経ってもまったく変わらなかった。

お互いに豪勢なのは嫌いだったので、披露宴はせずに、親族だけでお食事会をした。婚活を始めるずっと前から、親戚や職場の同僚の披露宴に出席するたびに、自分には結婚しに呼ぶ友達がいないことが不安で、結婚式なんてしないと考えていた。でも、彼女が「私も友達いないし、タッちゃん(注意:俺のこと)みたいに親戚も多くないから、親兄弟だけにしようよ」と言ってくれたのでそうした。なお、彼女の友達いないの意味は少ないであって、俺みたいにゼロではない。
特に催し物はなかったが、楽しい時間だったと思う。よく披露宴で見かけるような、スライドショーや巨大なケーキ、両親への手紙なんかは一つもなし。彼女の料理を食べたいという強い希望で、本当に料理を食べるだけの時間になった。ただ、料理コースは奮発して、一番高いのにした。そうそう、二人の共通点としてお金に関心がないというのが、後から分かった。必要なものは買うが無駄遣いはしない。でもケチケチせずに気に入ったものはちょっと高くても買う。この共通点は新居の家具を買う時に役立った。結婚前にマンションを借りて一緒に住む事にした。それで、家具屋さんを見て歩いた時も、安物や高級品は二人ともイヤで、ちょっと小洒落た感じのもので意見が一致した。こういうので意見が分かれると、お互いに大変だっただろなと思う。一緒に暮らし始めるとそれまで知らなかった新たな発見がいくつかあった。例えば、ブラジャーは下着なのに結構硬くてワイヤーが入っていたりだとか、女性にもすね毛が生えるだとか。パンツでもシャツでも下着は柔らかいものしか知らなかったのでブラジャーの硬い感触は新鮮で予想外だった。それに下着にフックが付いているのもブラジャーだけだろう。あと、彼女の足に触った時の感触は"えっ"というものだった。よく見たら、短い毛がまばらに生えていた。彼女に聞いたら、みんなふつうに生えると言う。もしかしたらと思って「ヒゲは?胸毛は?」と聞いたら、それは生えないらしい。そうだよね。生えてたら怖いよね。あとエッチはAVと全然イメージが違った。実際は照明を暗くしてるからよく見えないし、あんな派手に声を上げないし、もっといろいろ話をしながらするし。以前はよく眠れるので毎晩寝る前に1人でAV観てやってたが、2人だと気持ち的にもマンネリ的にも毎日は大変なので週末だけになった。エロゲーは声優さんが状況を説明しながら声を出しているので実際とは違う演技だとういうのは分かっていたが、AVもそうだというのは意外だった。心残りなのは、風俗に行っておけば良かった事だろうか。プロの女性のサービスってどんななんだろうか。

結婚式のお食事会の料理は今まで食べたことがないほど豪華で、フカヒレのスープはサンマぐらいはあるフカヒレが二枚も入っていた。せっかくなのでスマホで写真に撮りたかったが、さすがに自制した。でっかいエビだかロブスターだかの盛り付けも凝っていて、いかにも、高級そうな雰囲気を醸し出していた。本当に惜しい。

これまで彼女とは毎週、いろんなところに出かけていろんなものを食べた。念願の貸切風呂がある温泉宿に泊まったり、クリスマスや誕生日にプレゼントを送ったりした。意外と楽しかったのは、結婚指輪選びと式場準備。普段、会話することのない若くてキレイな女性とお話しできたのは思わぬ収穫だった。指輪はこれまでしたことがなかったので、サイズを測ったり、お試しでハメた指輪が抜けなくなって女性に外してもらったりした。指輪のブランドは聞いたことのあるものから、知らないものまで沢山あるが、有名で高級なものほど店員さんの平均年齢が上がるので、デパート中に出店しているお店がいい気がする。結婚式の準備は何でっていうくらい何度も打ち合わせした。幸い受け持ちの女性は20代くらいのキレイな女性だった。一回、2時間くらい誰を呼ぶかや席順、ブーケのデザインなんかを決めた。仕事の会議もこういう女性が一人でもいれば大分雰囲気が違うと思うが、実際は男ばかりでむさ苦しいことこの上ない。お食事会での進行で、最初の挨拶と最後の挨拶をやれと言われてしまった。挨拶を全てなしにできないか、または、新婦に代わってもらえないかなどできるだけ抵抗したがダメだった。最後の方は、「何言ってんだコイツは」みたいな呆れた目でプランナーさんに見られてしまった。女性、特にキレイな女性に嫌われるのは本意ではないので、止むを得ず挨拶をすることになった。

お食事会も新郎の挨拶で最後だった。「〜花子さん(注意:小川さんのこと)のお義父さんとお義母さん、彼女は私が必ず幸せにします。お父さん、お母さん、今まで育ててくれてありがとうございました。」と前日にネットで見つけた例文をアレンジして作って丸暗記した挨拶の言葉を話し終わるとお母さんが泣いていた。向こうのお義母さんは終始、ニコニコしていて対照的だった。この年、初めて小川さんを実家に連れて行って両親に紹介した。今まで浮ついた話のひとつすら皆無で自分の結婚は諦めていた両親は本当に驚いたと思う。最初に付き合っている女性がいる事を話したときは半信半疑だったんじゃないだろうか。でも実際に会ったら分かってくれたと思う。馴れ初めを聞かれたら正直に婚活イベントで会ったと答えるか、それとも共通の友人の紹介とごまかすか迷ったが、何も聞かれなかった。その代わり、彼女の仕事とか住んでいるとことかを質問したぐらいで、ほとんどは歓迎してくれた。そう言えば、彼女の実家に挨拶に行った時も、お義父さんから「お前みたいな何処の馬の骨かわからんやつに娘はやれん」みたいに言われないか心配でビクビクして挨拶に行ったら、どちらも大変気さくなご両親で楽しく食事して終わった。普通、こういうものなんだろうか。自分は知らない間にアニメに毒されていたらしい。なお、アニメは今でも普通に観ているが、小川さんからは何も言われていない。小川さんはジブリピクサーの映画は観るがそれ以外のアニメは観ない。アニメを見ている時に隣を見たら熟睡していた。彼女はバラエティやドラマが好きだが自分は観ないので、ネットをしてるか本を読んでいる。そして、「子供ができたらオタクにはしない」と言っていた。俺はスポーツ全般が苦手だしアニメやゲームの環境が充実してるので、子供ができたらオタク以外の人生を歩むのは難しいんじゃないだろうか。

訳あってハネムーンには行かなかった。後日、市役所に戸籍を取り行った。以前に戸籍を見た時は両親の名前があったが、今は「佐藤 太郎」の名前と妻と区分された「花子」の名前が書かれていた。ようやく結婚した事を実感できた。物心ついてから何十年も願いながら無理だと諦めていたことをようやくやり遂げた達成感と安心感が心に湧き上がってきた。

(最終話 おわり)