第十七話 オタク婚活パーティーでの出来事(その6)
(クチャラー、その後)
遠坂さんにクチャラー認定されてから口を閉じて食べる練習を始めた。練習の機会は朝食、昼食、夕食の1日3回。よくご飯は〇〇回以上噛んで食べましょう、みたいな話があるが、あれみたいにしっかい口を閉じて、よく噛んでご飯を食べた。困ったのは口を意識して閉じていても、前と比べて音が出ていないかどうかが分からないことだった。分からないので、今やってることが正しいかどうかも不明だった。幸い、いつもご飯は一人で食べてるので、無言で黙々と食べていても、不審がられたりしなかった。(と思う) それからだいたい3ヶ月くらいたった頃、いつも通りご飯を食べていたら、「にゅちゃっ〜」っと不快な音が聞こえて固まってしまった。その音の発信元はどうやら自分の口の中だった。ああ、確かにこういう音を撒き散らしながご飯を食べてたら、周りは不快だよなと、納得した。と同時に理屈はよく分からないが、自分でも音の有無が分かるようになったので、もう大丈夫だと思った。実際、それ以来、クチャラーと言われた事はなかった。 その後も外を歩いてる時でも周りの人の口元を気にしていると、老若男女問わず、口を開けたままガムを食べたり、食事をしている人がいることが分かった。 多分、婚活を続けるかぎり、こういう自分の欠点と向かい合い続けることになるんだと思うと、ため息が出た。
(第十七話 おわり)
第十七話 オタク婚活パーティーでの出来事(その5)
(ハイスペ男子)
アエルラには年令制限はないがある条件を満たした男性しか参加できないイベントがあり、ハイスペ男子と呼ばれていた。その条件とは、年収600万円以上か公務員などで、社会的ステータスで条件を決めているらしかった。出身大学や偏差値、顔面偏差値は関係ないらしい。そして、女性は20代と決められていた。そこで、このイベントに参加できれば、もしかしたら若い女性と付き合えるかも知れないと考えていた。その可能性が1%でも0.001%でもゼロではないだろう。少なくとも参加しなかったらゼロだ。中国嫁日記の井上純一さんは40代で10才年下の奥さんを貰ったそうだし可能性はあるはずだ。幸い年収は900万円なので条件は満たしているし、これまでの婚活パーティーでチラ見した限り自分より年収の高い男性はいなかった。そして、会社の休み時間を最大限活用しアエルラからの新規募集のメールに即応し申し込みを完了させた。
イベント当日、いつも通り開始30分前に到着して、イベント開始前の時間を有効利用して先に来ている女性との会話を試みることにした。同じテーブンに座った女性は、ストレートの黒髪を肩まで伸ばしたおとなしそうな感じの人だった。とりあえず無難にこんにちはと挨拶してから「今日は天気が良くて良かったですね」といったが無反応。「お店の場所って分かりにくいですよね。自分は最初に来た時かなり探しましたよ。・・・」と適当に話しても無反応。明確に質問すれば、イエス、ノーくらいの返事をするだけ。もともとコミュ障なのもあり、まともな会話にならないまま、イベント開始時間になってしまった。
この後はいつも通りの流れで、司会者からの説明と注意事項、そして回転寿司形式での自己紹介まで終わった。ちょっといつもと違ったのはフリータイムからだった。男性一人に7人ぐらいの女性が集中してプチハーレムを形成していた。その男性はブサメンではないがイケメンでもなく、何がそんなに魅力的なのかは分からなかった。あぶれた男性はただその状況を静観していた。ちなみに男性参加者はだいたい30才くらいに見えた。40才オーバーは自分だけかも知れない。
その後のフリータイムで他の男性と同席になったりしたので、プロフィールを見たら、年収はだいたい1千万を超えていた。どうやったら、30才くらいで年収が1千万を超えるのかさっぱり分からんかった。
結局、この日のイベントはアウェイ感というか場違い感をずっと感を時続けることになったので、二度と参加しないことを心に誓った。
なお、一番人気の男性は、自分が来た時にコミュニケーションを拒絶されまくった女性とカップルになった。
第十七話 オタク婚活パーティーでの出来事(その4)
(カップリングのコツ?)
婚活の回転寿司タイムでは、最初にまず挨拶してプロフィールシート見ながら雑談という流れで進めていたのだが、たまたま隣の会話が聞こえた時に、男性が女性のアクセサリーが何かを褒めているのが聞こえた。ネットの記事でも女性を褒めろと書いてあったが、実際にそういうのを目撃したのは初めてだったので、衝撃を受けてしまった。そこで、さっそく自分も実践してみることにした。 最初に挨拶するのは同じ。その後、何でもいいから褒める。キレイですね、とかカワイイですね、はキャバクラ(行ったことないけど)みたいなのでやめといた。とりあえず無難にアクセサリーとか、洋服を褒めることにした。まあ、褒めたからといってすぐに反応が変わったわけではないのだが、相手の女性を覚える効果がある事に気がついた。回転寿司タイムが終わると誰が誰だかわからなくなるが、服の色をメモっておくと後から見た時にだいぶわかりやすい。 あと、アジアンティックなちょっと変わった感じの女性がいて、あまり話は合わなかったのだが、その女性の番号を書いて出したら、何とカップルが成立してしまった。ただ、その後、一緒にカフェに行って話をしてもやっぱり話が合わず、結局、その場限りだった。それでもカップルになれたのは、相手を褒めた効果かも知れない。
第十七話 オタク婚活パーティーでの出来事(その3)
第十七話 オタク婚活パーティーでの出来事(その2)
第十七話 オタク婚活パーティーでの出来事(その1)
第十六話 再スタート
とりあえず「クチャラー」をググってみた。
http://jin115.com/archives/52091177.html
・口を開けて食べ物を咀嚼しクチャクチャ音をさせる人
・本人は無自覚
・指摘したり直すように言うと逆ギレする
・とにかく不快に思われている
・直した人もいる
おおよそ想像通りの内容だった。女性の顔を見て話せなかったのも慣れで何とかなったのだから、これも何とかしよう。また、彼女ができた時に同じ原因で嫌われることのないように、可及的速やかに(かきゅうてきすみやかに)克服する必要がある。そう例えば、今すぐにでも。
その後、意識して口を閉じてご飯を食べてみたが、口が開いている時との違いがまったく分からなかった。一人暮らしだし、友達もいないので、咀嚼音が漏れていないかを聞く相手がいない。スマホで録音するのもどうかと思うし。仕方がないので、確認は後回しにして、口を閉じて食べる習慣をつけることにした。
確かにクチャラーは大きな問題だが、根本的な問題は別にある気がしていた。自慢じゃないが自分にはいろいろな欠点がある。まあ、クチャラーは想定外だったが、それ以外にもイビキはうるさいし(こっちは家族や同級生からよく言われていた)、方向音痴だし、ペーパードライバーだし、料理もできない。スポーツもダメで特技もない。改めて考えてみると遠坂さんとこれ以上付き合ったとしても何か別の理由で振られてていたと思う。そう、彼女は自分のことが好きではなかったのだ。ただ、これと言って悪い条件がなかったから何度かデートしただけで、ひとつでも欠点が見つかれば、サヨナラなのだ。それこそ自分には欠点なんかいくらでもあるのだから結末は分かっている。
世の中の恋人同士とか夫婦はどうやって何年も付き合い続けられるんだろうか?どんな人間だって欠点の一つくらいはあるだろう。どうやって相手に許容してもらっているんだろうか。逆にどうやって相手の欠点を許容しているんだろうか。お互い「好き」になればいいんだろうか。どうやったら「好き」になってもらえるんだろうか。
悩んでいても仕方が無いので、行動に移すことにした。結構な時間とお金がかかってしまったが高い授業料と思うことにした。たった数回の婚活パーティーで上手くいくほど世の中は甘くなかったのだ。
とりあえず、週末は婚活パーティーに参加することにした。オタク系婚活パーティーのアエルラとシングル、そしてイベント合コンの4seenを組み合わせれば毎週末に活動できそうだった。オーネットとかの結婚相談所はお金がかかるだけで余りいいとは思えなかった。相手の身元は相談所がチェックしてるだろうからあまり変な人はいないのかもしれないが、結局、相手を判断するのは自分だろう。また、メールを使ったネット婚活にも興味はなかった。メールやプロフィールを見ても相手のことも自分のことも分からないし、いざ、会ってみてガッカリとかになったらそれまでのやり取りが無駄になってしまう。とにかく、自分は結婚を希望している独身女性と毎週会えればそれでよかった。
(第十六話 おわり)